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カナダの高齢者福祉情報 

日本にとても近い、人権意識の高い国
植松容美
★生きるパワーをもらったカナダ
 2003年11月9日、生まれて初めてカナダの地に降り立った。気候は、おそらく東京の真冬並みの寒さ、風は頬を突き刺すように冷たく、吐く息は真っ白。紅葉もすでに終わりかけており、道には大人の手を広げたくらいの黄色いメイプルの葉がたくさん落ちていた。カナダ・ビクトリアの第一印象は、「いろいろな人がいる国なのだなあ」ということだった。寒い中でも、カフェの外でのんびりコーヒーを飲む人、大きな犬を連れて散歩をする人など、各々がその人なりの豊かな時間を味わっているように感じられた。それから5日間、実際に生活してみて、想像以上に多くのことを学び、日本人として生きるパワーをもらった。特に心に残っているいくつかの経験や感想を紹介する。

★フラフラと散歩をしていても…
 初日に街を歩き、一番驚いたことは、歩行者が信号機のない横断歩道にさしかかると、必ず車が止まることだ。日本でも歩行者優先であるはずなのに、横断歩道を渡る時は細心の注意を払い、ほとんどの場合、車が完全に止まってからでないと渡れない。ひどいときは、「渡るな!」とクラクションまで鳴らされることもある。しかし、カナダでは、車が間近まで迫っていても、歩行者のほうからどんどん横断歩道を渡り始める。もちろん、日本のように「止まってくださって、ありがとうございました。」のお辞儀はない。それが社会のルールなので、守ることが当然なのだ。自分勝手な理由で「急いでいるからいいや。」とか、「自分ひとりくらい、守らなくてもいいだろう。」という気持ちが、実は多くの人にとって生きにくい社会にしている、ということを、もう少し真剣に考える必要があるだろうと思った。

★「生きていることが楽しみ」

 高齢者施設「サンライズ」に行ったとき、90歳の男性(入居者)に「あなたの楽しみは何ですか?」という質問を投げかけた。すると彼は「生きていることが楽しみです。」と堂々と答えた。他の施設でも、いろいろな人に同様の質問をしてみたが、「この地域に住んでいることが楽しみです。」「時間がたつのが早く、一日がとても短く感じます。」という言葉が返ってきた。あまりにもイキイキと、なんのためらいもなく答えるので、はじめは見栄を張っているのではないか、と思ったほどだった。しかし、即座に、仮に見栄やプライドからそういう言葉が発せられているとしても、他国からの訪問者に「ここ(自分の住んでいる地域)が好きです。」「(高齢者福祉政策で)嫌なところは特にありません。」と胸を張って言える、というのはとてもすばらしいことだと思った。それから、片言の英語と大げさなジェスチャーを交えながら、若かった頃のことや、毎日の生活ぶりなど、話が進んでいくうちに、彼らは本当にカナダを愛し、今の生活を心ゆくまで楽しんでいる、ということがひしひしと伝わってきた。

★幸せの閾値
 ビクトリアも、日本と同じ少子高齢化、医療費の増大という大きな問題を抱えていた。そこに住む高齢者も、「住みなれた自宅で、健康で長生きをしたい。」という願いを抱いていることがわかった。そのために、ビクトリアでは、病院や入所施設を減らし、在宅で利用できるサービスの充実に努めていた。アクティビティセンターを利用している人の中には、「退屈なメニューもあるが、皆と集まって、話をしたり、コーヒーを飲んだりすることがとても楽しみだ。」と話す人がおり、この点でも、日本の高齢者の感情ととても似ていると感じた。
この他にも、ビクトリアやカナダの事情や政策の目標は日本と似ている点が数多くあるが、街の人や高齢者のイキイキとした表情は、むしろ福祉先進国といわれる北欧デンマークで出会った人たちと似ているように感じた。なぜこのように表情豊かに生きられるのか、その理由として、文化や歴史的背景等が影響しているのだろうとぼんやり想像した。だが、はっきりと感じたことは、私が出逢ったカナダ人の多くは「幸福の価値観」が多種多様に渡っている、ということだった。お金をかけて遠方に旅行することから幸せと感じようとする人と、家の近くの見慣れた景色を見ながら歩くことでも自然に幸せが感じられる人では、長い人生の中で、心の豊かさに違いが現われるのではないかと感じた。普段から、生活感覚を磨き、小さな事からも幸福を感じられる「幸せの閾値」を低くしておくことは、他人から「楽天的」「ノー天気」と言われるかもしれないが、自分なりの幸福がたくさん蓄積され、充実した人生を送れることにつながるように思う。

★移民を受け入れる、ということ
 ビクトリアの街を歩き、レストランで食事をしたり、買物をしながら、いつの間にか私もここでの生活を楽しんでいた。はじめは、「外国に来ているのに、どうして自分の居場所があるような安心感があるのだろう。」という疑問があった。その答えは、カナダに住む人達の話を聞いているうちに、少しずつ理解できてきた。
カナダは、移民受入国であり、多くの外国人が住んでいる。隣り合うアメリカ合衆国との大きな違いは、外から来た人達の文化や習慣を否定したり、カナダ文化に染めようとするのではなく、それを尊重し合い、共に生きていこう、という意識が根付いていることだ。カナダに住む日本人も、移民だからと言って肩身の狭い思いをしたり、差別を受けたことはない、と口をそろえて話す。このような居心地の良さが、カナダに住む人の心を豊かなものにし、日本から来た私にとっても、身近な国に感じさせてくれているのではないか、と思った。飛行機で約8時間、でもそれ以上に日本と近い“となりの国”であるように思えた。
 さて、日本はどうだろう。同じ顔の色、髪の色をしていても、「あの人、韓国人か中国人じゃない?」などと言い「日本人ではない」ということを無意識のうちに強調してしまう傾向にあるように思う。これはもちろん、悪いことではないが、自分が外国へ行ってそう言われたらどんな気持ちがするだろう。さらに、これは人種のことだけではなく、例えば障害者や高齢者など、あらゆる人を見る時にも通じる。同じ人間として、違いを認め合える社会というのは、誰もが住みやすい社会であり、これから日本は、このような面でもアジアをリードしていく役割を持っているように思う。
 最後になりましたが、ビクトリア国際交流センターのスタッフの皆様をはじめ、訪問先の施設の皆様には大変お世話になりありがとうございました。また、共に研修に参加した、中能さん、田邊さん、本当にありがとうございました。
 一歩日本から飛び出して、外の世界を少し覗いてみると、わが国の民主主義の未熟さと、アジアの国々を先導しながら、国際的な問題のために苦しむ人々と共に歩んでいかなければならない、という大きな責務を担っていることに気づかされました。私ができることはほんのわずかですが、まず日本人としての誇りを持って、日本文化や歴史を大切にした上で、変えていかなければならないものは改革し、また、変わらないほうがいいものはそのままの形で、その点を見極めながら、自分の人権意識を磨いていきたいと思います。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

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